名古屋工業大学大学院 工学研究科 生命・応用化学専攻 ソフトマテリアル分野

Research

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 N-ヘテロ環状カルベン(NHC)による重合

1991年にArduegoらによって有機分子触媒であるN-ヘテロ環状カルベン(NHC)の単離に成功して以来、NHCを利用した極性転換や高分子合成の研究が盛んに行われるようになりました。高分子合成の例として、開環重合や連鎖重合の開始剤としてNHCを用いることができると報告されました。特に、ラクトンやラクチドの環状モノマーの環拡大重合についても報告されています。

      • NHCを用いた環状ポリ(ソルビン酸メチル)の合成

当研究室では、このNHCを開始剤に用いた高分子合成の研究を行っています。研究例の少ないソルビン酸メチル(MS)の重合を試みた結果、環状ポリ(ソルビン酸メチル)が合成されることを発見しました。特に嵩高い有機アルミニウム化合物であるメチルアルミニウムビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシド) (MAD)存在下では、その立体障害により分子量と付加様式が制御された環状高分子の合成にも成功しています。


主な論文

J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 15005.

 電気泳動する非イオン性高分子と機能性コーティング

当研究室では、長尾博士(H24年度修了)らが主鎖構造にエステル基とスルホニル基を含むポリ(エステル-スルホン)が、電荷を持たないにもかかわらず電気泳動堆積(EPD)法によって極板選択的に電気泳動することを発見しました。

このEPDはイオン性の粒子に見られる現象であると認識されていましたが、非イオン性のスルホニル基を有するポリエステルが電気泳動することを世界で初めて報告しています。現在、この非イオン性高分子のEPD現象を応用した研究を展開しています。

      • 電気泳動する非イオン性高分子微粒子による構造色の電着塗装

従来、自動車等の防錆を主目的として広く使用されている電着塗装は原理上、塗膜の色や被塗物の材質に大きな制限があります。電着塗装において、現在の主流である下塗りのカチオン型電着塗装は、塗膜が黒色のため、その後にカラー塗装のベースとなる中塗りと、カラー・耐候用途の上塗り工程が必要でした。この中塗り・上塗り工程においては、下塗り塗膜が存在するために被塗物に通電されず、電着塗装は行えませんでした。

本研究は、上記従来の問題を解決すると同時に、視認される有彩光色が構造色を呈する光発光新材料であり、電気化学的安定性、分散安定性に優れた非イオン性(中性)の高分子微粒子からなる電着塗料組成物を提供することができます。

本研究を応用すれば、下塗り、中塗り、および上塗りの工程を同時に行うことができ、大幅な省エネ効果が期待できます。また塗料が中性であるため、塗装設備の腐食・損傷を大幅に抑制できます。そのため、本技術は電着塗装の省ステップ化・短時間化を実現し、省エネルギーへ大きく貢献する可能性があります。(この研究は2016年9月8日にプレスリリースされています。)
【エコで経済的!最新の車の塗装技術】たった1工程で塗装する技術を解説します!
(youtube動画:名工大テクノロジーチャンネルより)

主な論文

Polymer 2019, 167, 54.
Polym. J. 2018, 50, 959.
Polym. J. 2018, 50, 187.
Macromol. Chem. Phys. 2018, 219, 1700468.
Polymer 2017, 117, 243.
Macromol. Chem. Phys. 2016, 217, 2595.
Polymer 201688, 1.
Biomacromolecules 2015, 16, 1259.
Polym. Chem. 2015, 6, 4336.
Polym. J. 2014, 46, 682.
RSC Adv. 2014, 4, 15983.
Macromolecules 2012, 45, 3326.

 バイオマテリアル・バイオセンサー

当研究室では、再生医療材料や感染症の検査キットの開発に向けた研究を行っています。

      • 細胞外マトリックスタンパク質へのポリオキサゾリンのグラフト化と血管内皮細胞脱着制御

近年の医療の進歩は目覚ましく、再生医療材料に関する研究に注目が集まっています。細胞の生育・増殖のための足場となる細胞外マトリックスタンパク質は、高い強度を持ち組織に柔軟性を与えるエラスチン由来のタンパク質構造と、ヒト由来の血管内皮細胞と接着するフィブロネクチン由来のタンパク質構造[CS5(REDV)]を組み合わせたもので、人工血管材料への応用が期待されましたが、溶解性や生成量の低さ、生体適合性の不足から実現化はされませんでした。そこで当研究室では、細胞の増殖速度が速い遺伝子組み換え大腸菌を駆使し、CS5-ELFのフェニルアラニン(F)部分をp-アジド-フェニルアラニンに置き換えることで高分子鎖との複合化を検討しています。

本研究では複合化させる高分子として、ある一定の温度以上では凝集し疎水性となり、それ以下の温度では親水性となるLCST挙動を示し、温度変化による血管内皮細胞の接着制御が可能なポリオキサゾリンを用いています。ポリオキサゾリンの温度応答性により、ヒト由来の細胞が増殖しやすい培養温度(37°C)では、ポリマーを固定化した表面が疎水性となるため細胞が接着します。培養後は温度を室温程度(20~25°C)に下げることで、ポリマーを固定化した表面が親水性に変化し、細胞が接着できなくなるため、シート状の細胞が回収可能となります。このようなシート状の細胞は損傷した臓器や組織に移植できることから、再生医療への応用が期待されています。

主な論文

Polymer 2018, 136, 194.
Macromol. Chem. Phys. 2017, 218, 1700351.
RSC Adv. 2015, 5, 41445.
Biomacromolecules 2011, 12, 3444.

過去の研究内容はコチラ